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2011年4月

2011年4月13日 (水)

半減期

次の計算に入る前に
半減期について、簡単に説明しておこう。

何もかも詰め込んで話が長くなる傾向があるからな。

放射性物質は、その原子核がはじけて、放射線を出す。
「はじける」ってのは単にイメージのために使った表現で、
まぁ、とにかくいきなり前触れもなく放射線を出すわけだ。

放射線を出して別の種類の原子核に変わる。

つまり、放射線を出すほどに、もとの種類の原子核は減っていくわけだ。

次の瞬間に放射線を出すか出さないかは完全に確率で決まる。

原子核の内部で常にサイコロを振っているような状態だ。
そういう仕組みの物理現象なのである。

長生きしてきた原子核だからそろそろはじけやすいぞ、ってことはない。
本当に確率でしか決まらない。

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一個一個を見ている分には確率でしか決まらない現象だけれども、
多数の原子核を集めて観察すれば、
次の瞬間に全体の何割がはじけるのかというのは確実に分かる。
確率というのはそういうものだ。

ある確率で何割かがはじけてしまえば、もとの物質の原子核の数は減るだろ?
その次の瞬間には、その残った量の何割かが、同じ確率ではじける。
さらに減って残った量に対して、同じ割合で、次の瞬間にはじける。

つまり、はじける数は徐々に減っていくわけだ。
でもいつまでもなくならない。
一定の割合で減っていくだけだからだ。

理論上はそうなのだが、遅かれ早かれ最後の一個になって、
そいつがある確率ではじければ全てなくなったことになる。

しかし完全になくなるまでの時間は理論上は無限の時間が掛かるわけだし、
確率でしか分からないことだから、
もう少し確かな目安がほしい。

そこで、元の半分になるまでの時間を使うことにした。
それが「半減期」というやつだ。

例えば、ヨウ素131ってやつは、原子炉の中でウランが分裂して出来る。
こいつの半減期は約8日。

8日経てば、半数は放射線を出して別の物質(キセノン131)に変わる。
キセノン131も放射線を出すのだが、こいつのことは今は置いておこう。

さらに8日経てば、その残ったうちの半数がキセノン131に変わる。
つまり、もとの 1/4 に減っていることになる。
さらに8日経てば、そのまた半分、といった具合だ。

半減期の倍の、16日で完全になくなるというものではない。
原子核内部で起きていることは常に確率なのだ。
過去にどれだけ生き残ってきたかということは関係ない。

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次の瞬間にどれだけはじけるかという割合は
「崩壊定数」と呼ばれている。

崩壊定数と半減期には、次のような関係がある。

崩壊定数 = log 2 / 半減期   ≒   0.69 / 半減期

この計算をするときには半減期を秒で表わしておかないといけない。

残っている原子核の数に、崩壊定数を掛けると、
次の1秒内ではじける「おおよその」数が求められることになる。

半減期が1秒よりずっと短い場合にはもう少し慎重な計算が必要であるけれども。
しかしそんなに難しくはない。
例えば「次の1マイクロ秒内にはじける数」のように、
もっと短い期間を考えないといけないだろう。
その場合にはマイクロだから、1,000,000 で割ってやればいいわけだ。

これで説明終わり。

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え? キセノン131のことが気になる?
こいつは半減期 11日程度でガンマ線を出して、安全な物質に変わる。
何に変わるかって?

説明が面倒だなぁ。
ガンマ線を出すときには原子核の種類は変らない。

ヨウ素131がベータ線を出してはじけた後のキセノン131は、
内部でエネルギーを余分に持っている励起状態なのである。

これがガンマ線を出すと、
相変わらずキセノン131のままだけど、
励起状態ではなくなってもう安定している。

ガンマ線というのは、大抵、こういう、
内部に余分にエネルギーを持った状態の原子核から出てくる。

ガンマ線を出せばそれ以上は崩壊しないとは限らないけれども、
少なくともキセノン131は安定な原子核だ。

2011年4月12日 (火)

宇宙線はどれくらい?(後編)

地上に降り注ぐ宇宙線の主成分はミュー粒子(ミューオン)である。
・・・と納得するまでを書いたのが前回である。

前回も参考にした「このサイト」によると、
1分間に、1平方メートルあたり、約10000個のミューオンが
地上に飛び込んできているということだ。

1秒あたりに直せば 160個くらいということか。

このような数値は
きっと専門家が測定してくれたものに頼っているのだろうから、
他のサイトからの情報と大きな差がなければ
信じてしまってもいいだろう。

例えば、「このサイト」は、
KEK(高エネルギー加速器研究機構)の一般向け解説であるので、
かなり信頼がおける。


ここには
「1秒間に200回以上も私たちの身体を突き抜けています」
と書いてある。

ちょっとズレがあるなぁ。

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宇宙から見た人間の断面積は1平方メートルより小さいはずなので、
最初の数値を信じるならば160個よりも少なくなりそうだが、
KEKでは200回以上と書いてある。

桁は間違っていないようだし、
宇宙線だって多いときも少ない時もあるだろうから、
だいたいこの程度という感じの数字なのだろう。

イメージとしては「数百個」ということにしておこう。

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ところで、先ほどのKEKのサイトは
スパークチェンバーについての解説である。

スパークチェンバーというのは、
宇宙線を眼に見えるように工夫した装置で、
科学館や原子力広報館などに展示してあることが多い。

高電圧を掛けた箱の中で、
宇宙線の軌跡が派手な放電として見えるのである。

宇宙線の軌跡にそって物質が電離されることを利用して、
それを高電圧で増幅して見せているのである。

私が子供の頃の記憶では、
1秒ごとに数個といった感じの、
とどまることのない派手な放電が見えていた気がするが、
大人になってから行ったところでは
いつでも数秒間に1個くらいしか軌跡が見えないのだった。

子供の頃の記憶違いかと思っていたのだが、
どうやら、この装置は、箱に飛び込むすべての粒子を
可視化しているわけではないらしい。

一度始まった放電を止める必要があるので、
電圧の掛けたり止めたりを調整しているのだそうだ。

常に放電させていても電気代を食ってしまうので、
わざと少なめに見せているのであろう。

本当は 1 秒ごとに数個なんてのでも少なすぎるくらいの
粒子が降り注いでいたわけだ。

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さて、このイメージと、0.04 μ Sv / hr という
宇宙線による被曝量をちゃんと結びつけることができるか、だ。

逆算してみるしかないだろう。

ミュー粒子が健康にもたらす影響はベータ線と同じ扱いになっていて、
アルファ線のように20倍しなくてもいい。
だからシーベルトをそのままエネルギーだと考えればいい。
楽だ。

0.04 μ Sv / hr は一時間あたりの値だから、
3600で割って1秒あたりの値に直そう。

1.1 × 10-11 Sv /秒。

つまり、毎秒、1.1 × 10-11 ジュールのエネルギーを受けているということだ。

ああそうだ。
シーベルトは体重 1 kg あたりの量なのだった。
体重をかけないと、体全体が受けた量にはならない。
60 kg ということで60倍しておこう。

約 6 × 10^-10 ジュール毎秒

これでは小さ過ぎて分かりにくいので、電子ボルト( eV )で表そう。
1 eV というのは 1.6 × 10-19 J(ジュール) だ。
こんな変換をして分かり易いかって?
慣れの問題だ。 私にとってはその方が具体的なイメージが描ける。
それだけのことだ。

毎秒 4000 MeV

核反応で出てくる粒子のエネルギーというのは数 MeV 程度だから、
それと比較してイメージしやすい。

この数字を、1秒間に飛び込んでくるミュー粒子の数、
だいたい300個くらいで割ってやれば、
一粒あたり、10 MeV くらいというわけだ。

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よし、そろそろイメージをまとめよう。

宇宙からやってくるのはほとんどがミュー粒子(ミューオン)。
毎秒、数百個が体に当たる。

そのエネルギーはすさまじく、
数 MeV ~ 数 TeV 程度にまで分布していると思われる。
(そのあたりは、前回悩んだ問題を解決しようと色々検索する途中で学んだ。)
ここで、1 TeV = 1000 GeV = 1000 × 1000 MeV である。
とにかくすさまじい。

そしてそのエネルギーを使い果たすことなく、体を簡単に貫通する。
だから体にそれほどひどい影響は与えない。

その際に、ほんの一部の運動エネルギーだけを使って、
つまり、平均 10 MeV くらいだけを使って、体の中の分子を散らす。

これでやっと自然放射線のうちの一種類のイメージ、解決!! かな?

2011年4月11日 (月)

宇宙線はどれくらい?(前編)

今回は自然放射線のうち、
宇宙から来るものについてイメージを描く努力をしてみよう。

こんな記事はすぐに書けるだろうと思っていたが、
少し調べるごとに疑問が増えてしまって時間がかかってしまった。

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宇宙からの放射線の原因は、
宇宙線と呼ばれる、高エネルギーの粒子である。

おそらくは超新星爆発などが由来であろう銀河宇宙線と、
太陽表面の爆発によって加速された太陽宇宙線の二通りに分けられる。

そのエネルギーの幅はとても広く、数MeV~1014 MeV もある。

普通の核分裂で出てくる粒子のエネルギーはせいぜい数十 MeV しかないので、
本当にケタ違いのエネルギーである。
現在最大の加速器でさえ 10 TeV 程度、つまり 107 MeV くらいでしかない。
宇宙線はさらに何桁も上のものが混じっているわけだ。

しかし太陽系由来の粒子は 40 MeV以下だそうで、それほど大したことない。
それ以上は銀河由来だそうだ。

これらの粒子の内訳は、ほとんどが陽子。(つまり水素の原子核)
ヘリウム原子核が少々。さらにほんの少しの種々の原子の原子核。

この辺のことは「このページ」に詳しく書いてある。


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これらの宇宙線は地球の大気上層の気体の原子核にぶつかって
次々と核反応を起こし、地上に直接到達することなく減速する。

その代わり、その反応で出来た粒子(2次宇宙線)が、
さらに下層の濃い大気中に飛び込んでくる。

このような核反応で量産されるのがパイ中間子である。
しかしこれは非常に寿命が短く、地上に到達するはるか前に崩壊する。

崩壊して、ミュー粒子(ミューオン、μ粒子)と
ニュートリノの一種、μニュートリノに分かれる。

ニュートリノは他の物質とほとんど反応しないので、
地球を軽々と貫通するくらいである。
人間の健康への害は考える必要がない。

要するに、地上に到達する宇宙からの放射線はほとんどミュー粒子である。

この辺のことは「このページ」に詳しく書いてある。


ミュー粒子は、電子の200倍の質量を持った粒子で、電荷は電子と同じ。
「電子の重いバージョン」である。


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あれ? おかしいぞ。
するとそれは、ベータ線が重くなったようなものだろ?
ベータ線は空気中では数十メートルしか飛ばないはずだった。

アルファ線はベータ線よりずっと重いので、その分だけゆっくり進み、
周囲の物質により大きな影響を与えて、ベータ線より早く減速するのだった。
空気中では10センチ以下くらい。

だとしたら、ミュー粒子の質量はアルファ線とベータ線の間くらいなんだから、
空気中ではその間くらいの距離しか進めないのではなかろうか?

なぜ数キロメートルの空気の層を突っ切って地上まで来られるのだろう?


これを調べるのはちょっと苦労した。

要するに運動エネルギーが、
普通のアルファ線やベータ線とはケタ違いなのである。
1次宇宙線のエネルギーを引き継いで来ているからだ。

運動エネルギーが大き過ぎると、前の説明とは違った事が起きる。
速すぎて、ほとんど周囲に影響を与えないまま突き進むのである。
その分、減速もあまりしない。
そういうことらしい。

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ところで 2 次宇宙線としては、中間子の他にも
電子やガンマ線も大量に出るはずだ。

そいつらはどこへ行ってしまうのだろう?
なぜ地上に降り注ぐ粒子のほとんどはミュー粒子だと言えるのか?

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電子だって1次宇宙線の運動エネルギーを引き継いでいるはずなので、
運動エネルギーが高いはずだ。
ミュー粒子と同じように空気を突っ切って来れるのではないか?

これを調べるのも苦労した。
というより、さきほどの疑問と一緒になって
頭の中がごちゃごちゃになったわけだ。
両方ともの疑問を矛盾なく解決する答を探す必要があった。


先ほど、エネルギーが高い場合には違った事が起きると話した。
どうやら、エネルギーが高い場合には、
質量が大きい方が減速しにくいらしいのである。

つまりベータ線より、ミュー粒子の方が有利なわけだ。
ベータ線は空気の層で途中で止められてしまっても
ミュー粒子はそれより長く突き進み、地面の中数百メートルにまで達するわけだ。

このあたりの減速の度合いを理論化した
Bethe-Bloch(ベーテ・ブロッホ)の式という公式があるのだが、
この式がどう導かれるのかについてはまだ調べ上げていない。
電子のような軽い粒子には適用できないとか、
色んな情報があって私もまだ困惑している。

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ではガンマ線はどうか?

ガンマ線はさらに透過力が高く、
空気を突っ切って地上に届くのはワケないような気がするではないか?

これについては先ほど紹介したサイトに書かれている。

ガンマ線のエネルギーが高すぎるが故に、
物質と相互作用して、簡単に対生成を起こしてしまうのである。
つまり、ガンマ線の高いエネルギーは、
大気中で多量の電子と陽電子を新たに産み出すのに使われて、
急激に減衰してしまうのである。


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さあ、これで、地上に届いているのはほとんどミュー粒子だということが
納得できるところまできた。

いよいよ量的なことを考えてみたいのだが、
すでに他所様のブログの一回分の記事よりはるかに長くなってしまった。

まだ長くなりそうなので、一旦ここで区切って次回に続けることにしよう。

2011年4月 8日 (金)

自然放射線はどれくらい?(準備編)

我々は普段から自然由来の放射線を浴びているとは聞いている。
そしてそれによる被曝量の値も時々はどこかで目にする。

しかし数字など聞いたところで、簡単に忘れてしまうのだ。

忘れないくらいに実感できるイメージを持っておきたいのである。
まるで放射線が目に見えてるかのようなイメージを!

これから数回にわたって、少しずつ調べていこうと思う。

私はそういう関係の教科書を持っていないし、
あまり厳密に検証するつもりもないので、
ネット上の資料に頼ることにする。

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日本人の自然放射線による年間被曝量というのが、
だいたい 1.19 m Sv(年間) なのだそうだ。
地域差があって、0.81 m Sv(年間) というところもあるので、1.5倍くらい違う。

それくらいの幅のあるだいたいの数字だと思ってほしい

ところで、今言ったこの数値は、
「宇宙から」「地面から」「食べ物から」の合計なのだそうだ。

この他に「空気から」というものもある。
これを加えるとさらに倍くらいの値になる。

内訳はこんな感じ
  宇宙から  0.39 m Sv / yr
  大地から  0.48 m Sv / yr
  食物から  0.29 m Sv / yr

  空気から  1.26 m Sv / yr

この辺りの話は電気事業連合会のサイトに書いてある。

年間のシーベルトの値ではイメージを描きにくいので、
1 時間あたりのシーベルトに直してみる。

一年は約 8760 時間であるから、
時間あたりに直すと約一万分の1の数値になる。
「ミリシーベルト」の部分を「マイクロシーベルト」に換え、
数字の部分を十分の1くらいにした感じになる。

  宇宙から  0.04 μ Sv / hr
  大地から  0.05 μ Sv / hr
  食物から  0.03 μ Sv / hr
  空気から  0.14 μ Sv / hr

  合計    0.26 μ Sv / hr

最終的には 1 秒ごとに、
どこからどの種類の粒子を何発くらい受けるか、
というイメージで捉えたいと思っている。

今回はまだそのための軽い準備でしかない。

等価線量と実効線量

シーベルトについてのもう一つの注意点は、
体の一部分にだけ放射線を受けた場合の扱いだ。
専門的には「局所被曝」と呼ぶ。

原子炉近くで働いている人などは、
体の一部分のみを強く被曝するということが起こりうる。

一般の人はあまりそういうことはないので
あまり知っている必要もないのかも知れない。

しかしレントゲン撮影やCTスキャンは局所被曝の一種だとも言えるだろう。

被曝量の説明では、
そういうものとの比較も行われているようなので、
少しだけ説明しておこう。

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わかり易さを優先して非現実的な数値を持ち出すが、
そこを理解して読んでもらいたい。

たとえば親指の先に 1 ジュールのエネルギーの・・・
そうだなぁ、ベータ線を受けたとしよう。
ベータ線なら組織の奥までは届かないから説明に都合がいい。
アルファ線と違って、エネルギーも20倍して計算しなくていいし。

さあ、これは 1 シーベルトだろうか?

そうではない。

シーベルトは体重 1 kg あたりの放射線の影響を表すのだった。
親指の先はせいぜい 10 g なので、
1 kg のことを考えると、その100倍しなくてはならない。

つまり100シーベルトである。

これは実際に体が受けた影響よりも、かなり大げさな値だ。


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部分的に受けた放射線量の値と、
体全体が受けた健康への影響の開きを是正するために、
シーベルトについてもう少し細かい計算法が存在している。

体の各部分、つまり臓器や骨や皮膚などを
パーセンテージに分けて考えるのである。

放射線に受けたときに、より影響の大きな部分、
つまり人間にとってダメージの大きいところは、
大きめのパーセンテージが割り振られている。

このパーセンテージは、
単純に臓器の重さや体積で決めているわけではない。

これらのパーセンテージを、各部に受けた放射線量と掛け合わせて、
体全体について合計することで、
より現実にあった評価ができるというわけだ。

これを「実効線量」と呼ぶ。


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ちょっと用語をまとめておこう。

粒子の種類に関係なくエネルギーを計算したものは
「吸収線量」と呼び、単位は「グレイ」。

粒子の種類によってエネルギーを20倍したりして
人間に合わせて計算した量を、
「等価線量」と呼び、単位は「シーベルト」。

体を各部分に分けてより細かく計算した量を
「実効線量」と呼び、単位は同じく「シーベルト」。

うん、ややこしいな。

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局所被曝のときには「実効線量」の方を使うかのような
誤解を与える説明になってしまったかも知れない。

しかし実際は局所被曝の場合でも「等価線量」が使われることが多いのである。

ニュースを見ていて、
「作業員がスゴイ量の被曝をしたように報じられていたけれど、
あれはすぐに退院して大丈夫だったの?」
と不思議に思ったら、ここで話したような
「シーベルトの数値」と「全身のダメージ」に差があることと、
それを解決する計算法があることを思い出して考えてみるといいだろう。

2011年4月 6日 (水)

シーベルトは期間が大事

シーベルトという量は、
人間の体重 1kg あたりに受けた放射線のエネルギーの総量である。

ただしアルファ線は健康に与える影響が大きいので、それを考慮して、
エネルギーを20倍にして計算する。

とにかく人間限定の量である。

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ガンマ線を 1 シーベルト受けると、
1 ジュールのエネルギーを受けたことになる。

1ジュールのエネルギーというのは、
1ワットの1秒間分だ。
豆電球を数秒の間だけ灯せるくらいだろうか。
(今調べたら1.5ボルトの豆電球で 0.5ワットくらいだそうだ。)

エネルギーとしては全く大したことはないのだが、
放射線は人間の体の分子を直接砕くという厄介なことをしてくれるので、
これだけでも被害甚大だ。

1シーベルトは人間の健康にとってはかなり大きな量である。

日常使うエネルギーのイメージと
シーベルトのイメージを比較することには
もうほとんど意味が無い。

定義をはっきりさせたお陰で
機械類を使って数値化できているわけだが、
シーベルトの量のイメージは
どれくらいの値で人間にどんな影響を与えるかということで
感覚をつかんだ方がいいだろう。

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問題は、
シーベルトの値だけでは
健康への影響を測れないという点である。

弱い放射線を長時間受け続けていても、
人間の体はある程度、そのダメージを修復してしまえる。

その場合、修復し損なったダメージが徐々に蓄積されていき、
ガン細胞が生じる可能性がゆっくり上がってきたりもするのだろうが、
これは長い期間で現れるかもしれない影響だ。

しかし修復が追い付かないほどのダメージを短期間に受ければ、
その場で確実に組織がやられて、危険な症状が出る。

つまり、どれだけの期間で、
どれくらいのシーベルトの放射線を受けたのかが大事なわけだ。
そこで「シーベルト毎時」「年間シーベルト」などという表現も多く使われる。

片や一時間の量。 片や一年の量。
意味も値の桁も、全く違ってくる。

初期の報道では、
この辺りの違いがほとんど意識されておらず、数字だけが飛び交っていた。

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今でもただ「シーベルト」と言うだけで、
それが「毎時」の意味なのか、「年間」なのか、
はたまた、震災直後から現在までの「積算値」なのか、
よく聞いていないことにはなかなかはっきりしない場合が時々ある。

ああ、ひょっとするとこの用語は難しく感じるかも知れないな。
今言った「積算値」とか「積算量」ってのは掛け算とはまったく関係ない。
単に「合計値」とか「総和」とかの意味だ。
「積み重ねて足していった量」ってことである。

今後はその辺りをしっかり注意して情報を受け止めることにしよう。
数値の大きさ、小ささだけに注目して踊らされないように。

実はもう一つ気をつけた方がいいと思う点があるのだが、それは次回にしておこう。

2011年4月 3日 (日)

ベクレルとシーベルト

福島原発の事故の件では次々と状況が変わって新しいことが出てくるので、
一体、何について書けば役に立てるのかと迷ってしまう。

しかし私が知っていることと
調べて分かったことを少しずつ書いていくしかないのだろう。

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放射線の量を表す単位は色々ある。

昔勉強したときには「なぜこんなにもあるのか」と嫌になったくらいだ。
しかも身近に使うことがないものだから頭にも入ってゆかない。

今回の事故で、本当に身近に感じるようになったし、
それぞれの単位の違いもはっきり分かるようになった。

とりあえず今回は、
「ベクレル」と「シーベルト」を説明すればいいだろう。

そのためには「グレイ」の説明を経由することが必要なんだけど。

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「ベクレル」は、1秒間に出てくる放射線の個数を表す単位だ。

一個の原子核がはじけて別の種類の原子核に変わるたびに、
一発の放射線が飛び出す。

ガンマ線が飛び出すときには原子核の種類は変わらないので、
今の表現には少々正しくない部分があるのだけれども。

1秒間に何個の原子核が「はじける」か。
同じことだが、1秒間で何発の放射線が飛び出すか、を表している。


しかしこれは定義は簡単だけれども、曖昧な単位だと思わないかな?

だって物質の量が多ければ多いほど、
はじける量も多いわけで、ベクレルの値はその分大きくなるわけだ。

それに物質の種類がはっきりしていなければ、
どんな放射線がどれだけのエネルギーで飛び出してきているのかの情報もない。

物質の種類によって、
飛び出してくる放射線の種類もエネルギーもだいたい決まっていて、
それぞれに大きく違っているのである。


だから、報道でベクレルという単位が使われるのは、
放射線の原因となっている物質の種類がだいたい特定されているときである。

「プルトニウム1kgあたり〇〇ベクレル」だとか、
「土壌1平方メートルあたり〇〇ベクレル」だとか、そんな表現になる。

範囲や量、放射線源の種類を特定しないことにはあまり意味のない量だ。


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では他の方法を使って放射線の量を数値化することを考えよう。

放射線源の種類によって出てくるエネルギーが違うのだから、
複数の放射性物質があるときには
合計の個数はあまりアテにならない。

その影響力を測りたければ、
放射線から受けるエネルギーの量を測ればいい。
放射性物質が「出す」エネルギーの量の方じゃなくて「受ける」量だ。

ガンマ線などは、あまりエネルギーを与えずに物体を通り抜けるわけだから、
少なめにカウントされることになる。
しかし影響力を測りたいのだからそれでもいいだろう。

しかしこれにも問題がある。

放射線を受ける物体をたくさん置いておけば、
その分、たくさんの放射線を浴びるわけだから、
合計のエネルギーはその分だけ大きくカウントされることになるではないか。

だから、物体 1 kg ごとに受けるエネルギーを使うことにしよう。

これを「グレイ」という単位で表す。

グレイという単位は、ベクレルと違って「1秒間」の量ではない。
受けたエネルギーの合計値だ。


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「シーベルト」はこのグレイとよく似ている。

残念ながら、グレイでは人間の健康にもたらす影響を
あまりうまく表すことができないのである。

もし同じエネルギーであっても
粒子の種類によって、体への影響力が異なるためだ。

そこで、
「もしアルファ線が当たったなら、影響力が20倍ということで計算しよう」
「ベータ線やガンマ線ならグレイと同じで計算」
という感じに「グレイ」の値を人間への影響に合わせて計算し直して表すことにした。

これが「シーベルト」だ。

純粋に物理学的な意味の量ではなくて、
医療系の経験を元にして決められた量だと言える。


正確に測ろうと思ったら、
その場にある放射線の種類とそれぞれのエネルギーを別々に分析して
計算で求めることになるのだろう。

しかし毎回そのような面倒なことをしなくても、
おおよそ正しい値を示す装置が工夫されているのだと思う。

いや、待てよ・・・?
放射線の種類が特定された状況で使うのが普通だから
測定装置の内部ではそんなにややこしい分析はしていないのかも。

(調査中)

ああ、そうか。
簡単な線量計ではどうやらガンマ線のみを測定しているようだ。
アルファ線やベータ線は、防護服で簡単に防げるから、
作業員の人体への影響は
ガンマ線のみに注目してればいいということらしい。


長くなったので、今回はとりあえず、これくらいで終わることにしよう。
シーベルトの使い方には注意が必要なんだ。
それを次回で説明しよう。

2011年4月 2日 (土)

放射線の易しい説明(その5)

(友人に宛てて軽い気持ちで書いてみたものです。 これで最後になります。)

今回で最後にしよう。
他にも話し足りないと思ってることは色々とあるけれど、
そんなに詳しく知りたかったわけでもないでしょう?

今回は、アルファ線と、ベータ線と、ガンマ線と、
それぞれが、体にどんな影響を与えるかを説明しますわ。

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人間の体も、色んな化学物質で出来ていて、
要するに、いろんな原子が結び合って出来ている。

簡単にいえば、放射線はこの結び付きを切るんですわ。
人間にとって一番困るのは、細胞の中のDNAの鎖をちょん切られること。
細胞はDNAの情報を読みだして色んな制御をしているからね。

でも人間の細胞には、壊れたDNAを修復する機能が備わっている。

一体、DNAが一日にどれくらい壊れるか、知ってる?
これを知ったとき、自分も驚いた。
50万回だって。
体全体で、じゃないよ。
一つの細胞の中だけで、一日にそれくらい。

人間の細胞って60兆個もあるんだよ。
全体で、どんだけ壊れてんだよ、ってーの。

それをいつも修復してくれてる。

人間は、普通の状態でも、1秒間に数千もの放射線に貫かれているんだ。

前回の、小雨のようなイメージは完全に俺の間違いだった。
一日に約10億回も撃たれてるってのが正しいみたい。
これだと一秒で1万くらいになるから、数千って言ってもほとんど同じだろ?

それを治す力が、人間の細胞にはあるんだ。

もしDNAが壊れすぎて制御できなくなったら、
細胞は他に迷惑が掛からないように自動的に壊れる機能も持ってる。
壊れた細胞を攻撃して破壊する機能も持ってる。
すごいよね。

==========================================================

前回までの話で、ガンマ線の貫通力が一番強いので、
ガンマ線が一番恐いと思ってるかも知れないね。

でも、人間のDNAにとって一番破壊力の強いのは、
紙一枚で防げるアルファ線だ。

アルファ線は、電気を持っている重いつぶだ。
重いから、ゆっくりだ。
ゆっくりと言っても弾丸よりも遥かに速いんだけど。

原子は電気の力で互いに繋がっている。

そこを電気を持った粒子がゆっくり進むものだから、
めちゃくちゃに蹴散らしていく。
それで、エネルギーを使い果たしてすぐ止まる。
紙一枚で防げるのはそういうこと。

これが体に当たれば、細胞の中のDNAを蹴散らしていくわけだ。
でも、そんなに心配しないで。
いつも、そうだな、今だって起きていること。
それに数ミクロンだけ進んで止まる。

それは細胞、たった数個分の距離だ。
なぁんだ。
奥には入って行かないのかー。 安心安心。

いや、逆だ。
もし大量に浴びれば、表面の細胞ばかりが集中的にやられるということでもある。
しかし外側ならそれほどでもないだろう。

もし大量に体の中に取り入れてしまえば、その部分が確実にやられるのである。

==========================================================

ベータ線も電気を持っているけれども、アルファ線より遥かに軽い。

あまり影響を与えないまま、体の中を数ミリ進む。
範囲はアルファ線より広いけど、影響はその分、分散するというわけ。

==========================================================

ガンマ線は・・・
全部のエネルギーを使わずに、体を通り抜けて出て行ってしまう。

体を貫通すると聞くと恐いかも知れないけれど、
穴を開けて出て行くというわけでもない。
体にほとんど触らずに・・・時々触って出て行くというイメージ。

==========================================================

今のところ、政府が指導している範囲の避難で十分だけれども、
もし、万が一、何か信じられないことが起こって、
避難範囲が広がることがあったとしたら・・・。

自分の住んでいる地域がそれに含まれたとしたら、
その時に気をつけるべきこと。

放射性物質をなるべく体の中に取り入れないことだな。
外で大きく息を吸わないこと。
マスクで口や鼻を覆うこと。

飲み込んだりしちゃいけない。
体の内部に入った物質から放射線が出ることになるわけだから。
特にアルファ線は確実に内部から体を痛めつけることになる。

体の外に付いた放射性物質については、あまり怖がらなくていい。
普通に水と石鹸で洗えば落ちるから。
特別な薬は要らない。

でもちょっとは怖がらないとな。
体の表面に付けたままにしておくと、指にもついたりして、
その指をなめたり、食器やタオルについたりして、
それをなめたりしたら、やっぱり体の中に入るだろ?

だから、帰ったらすぐに洗うこと。
普通に風呂で洗い流せばいいと思うよ。

放射性物質がついたな、と思う服は、家の中に入れない方がいい。

多分、こういうのは必要にならない知識だと思うけれど、
いざという時に、役に立つかも知れない。

単純だろ?

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放射線の正体なんてこんなものだからさ、
避難区域に住んでた人を差別するなんて、ほんと、バカげてるんだよ。

何か他に気になることがあったら質問して。

とりあえず、基礎知識としてはこれで終わり。
読んでくれてありがとう。

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