« 宇宙線はどれくらい?(前編) | トップページ | 半減期 »

2011年4月12日 (火)

宇宙線はどれくらい?(後編)

地上に降り注ぐ宇宙線の主成分はミュー粒子(ミューオン)である。
・・・と納得するまでを書いたのが前回である。

前回も参考にした「このサイト」によると、
1分間に、1平方メートルあたり、約10000個のミューオンが
地上に飛び込んできているということだ。

1秒あたりに直せば 160個くらいということか。

このような数値は
きっと専門家が測定してくれたものに頼っているのだろうから、
他のサイトからの情報と大きな差がなければ
信じてしまってもいいだろう。

例えば、「このサイト」は、
KEK(高エネルギー加速器研究機構)の一般向け解説であるので、
かなり信頼がおける。


ここには
「1秒間に200回以上も私たちの身体を突き抜けています」
と書いてある。

ちょっとズレがあるなぁ。

=======================================

宇宙から見た人間の断面積は1平方メートルより小さいはずなので、
最初の数値を信じるならば160個よりも少なくなりそうだが、
KEKでは200回以上と書いてある。

桁は間違っていないようだし、
宇宙線だって多いときも少ない時もあるだろうから、
だいたいこの程度という感じの数字なのだろう。

イメージとしては「数百個」ということにしておこう。

=======================================

ところで、先ほどのKEKのサイトは
スパークチェンバーについての解説である。

スパークチェンバーというのは、
宇宙線を眼に見えるように工夫した装置で、
科学館や原子力広報館などに展示してあることが多い。

高電圧を掛けた箱の中で、
宇宙線の軌跡が派手な放電として見えるのである。

宇宙線の軌跡にそって物質が電離されることを利用して、
それを高電圧で増幅して見せているのである。

私が子供の頃の記憶では、
1秒ごとに数個といった感じの、
とどまることのない派手な放電が見えていた気がするが、
大人になってから行ったところでは
いつでも数秒間に1個くらいしか軌跡が見えないのだった。

子供の頃の記憶違いかと思っていたのだが、
どうやら、この装置は、箱に飛び込むすべての粒子を
可視化しているわけではないらしい。

一度始まった放電を止める必要があるので、
電圧の掛けたり止めたりを調整しているのだそうだ。

常に放電させていても電気代を食ってしまうので、
わざと少なめに見せているのであろう。

本当は 1 秒ごとに数個なんてのでも少なすぎるくらいの
粒子が降り注いでいたわけだ。

=======================================

さて、このイメージと、0.04 μ Sv / hr という
宇宙線による被曝量をちゃんと結びつけることができるか、だ。

逆算してみるしかないだろう。

ミュー粒子が健康にもたらす影響はベータ線と同じ扱いになっていて、
アルファ線のように20倍しなくてもいい。
だからシーベルトをそのままエネルギーだと考えればいい。
楽だ。

0.04 μ Sv / hr は一時間あたりの値だから、
3600で割って1秒あたりの値に直そう。

1.1 × 10-11 Sv /秒。

つまり、毎秒、1.1 × 10-11 ジュールのエネルギーを受けているということだ。

ああそうだ。
シーベルトは体重 1 kg あたりの量なのだった。
体重をかけないと、体全体が受けた量にはならない。
60 kg ということで60倍しておこう。

約 6 × 10^-10 ジュール毎秒

これでは小さ過ぎて分かりにくいので、電子ボルト( eV )で表そう。
1 eV というのは 1.6 × 10-19 J(ジュール) だ。
こんな変換をして分かり易いかって?
慣れの問題だ。 私にとってはその方が具体的なイメージが描ける。
それだけのことだ。

毎秒 4000 MeV

核反応で出てくる粒子のエネルギーというのは数 MeV 程度だから、
それと比較してイメージしやすい。

この数字を、1秒間に飛び込んでくるミュー粒子の数、
だいたい300個くらいで割ってやれば、
一粒あたり、10 MeV くらいというわけだ。

===================================================

よし、そろそろイメージをまとめよう。

宇宙からやってくるのはほとんどがミュー粒子(ミューオン)。
毎秒、数百個が体に当たる。

そのエネルギーはすさまじく、
数 MeV ~ 数 TeV 程度にまで分布していると思われる。
(そのあたりは、前回悩んだ問題を解決しようと色々検索する途中で学んだ。)
ここで、1 TeV = 1000 GeV = 1000 × 1000 MeV である。
とにかくすさまじい。

そしてそのエネルギーを使い果たすことなく、体を簡単に貫通する。
だから体にそれほどひどい影響は与えない。

その際に、ほんの一部の運動エネルギーだけを使って、
つまり、平均 10 MeV くらいだけを使って、体の中の分子を散らす。

これでやっと自然放射線のうちの一種類のイメージ、解決!! かな?

« 宇宙線はどれくらい?(前編) | トップページ | 半減期 »

基礎の解説」カテゴリの記事

コメント

体を貫通する一部のミューオンが体に影響を与えて、他の大部分は体を素通りする、のではなく、体を貫通するそれぞれのミューオンが少しずつ影響力をもつ、というイメージなのでしょうか?

これについてはっきり誰かから学んだことがないので、
私の推測に過ぎないのですが、そういうものだと思います。

霧箱やスパークチェンバーでの観察実験では
ミューオンは進路に沿って軌跡をはっきり残しますので、
気まぐれに時々影響を与えるのではなく、
常に影響を与えながら(進路上の分子を蹴散らしながら)進むという感じですね。

しかし自作の霧箱による観察ではたまにしか軌跡は現れず、
毎秒数百個ものミューオンが来てるとは思えないほどです。

ミューオンのエネルギーによって反応の度合いが全く違うということではないかと思います。
ということは「他の大部分は体を素通りする」というイメージでもあるということかな・・・?

どうもよく分からないことがあります。

先ほど色々調べていてぶつかったのですが、
地上に届くミュー粒子の数を
「1分間に、1平方センチメートルあたり1個程度」としているものがチラホラと見られます。
手元の辞典(40年くらい前のものですけど)でもそう書いてます。

えらく少ないけれど、霧箱による観察のイメージではそんな感じですね。
どっちが正しいのかな? 確かめなきゃ。

例えばこことか。
http://nandemo-lab.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_7135.html
http://ksc.kek.jp/3rd_2009/2_kumita.pdf
http://kotobank.jp/word/%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%BC%E7%B2%92%E5%AD%90

ミュー粒子が全天からやって来るなら、1分間に1平方センチメートルあたり1個程度として、体の表面積を1.5平方メートルとするなら、「1秒間に200回以上、身体を突き抜けていく」ということになるのではないでしょうか?
体の表面積をかけることが正しいのかどうかはわかりませんが。

それだとなかなかいい感じの数値になりますね!
単純に地面の面積だけで考えてました。

人体の形を考慮するのは面倒ですが、
立体角のことを計算に入れて考え直してみます。

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 宇宙線はどれくらい?(後編):

« 宇宙線はどれくらい?(前編) | トップページ | 半減期 »