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2011年4月 8日 (金)

等価線量と実効線量

シーベルトについてのもう一つの注意点は、
体の一部分にだけ放射線を受けた場合の扱いだ。
専門的には「局所被曝」と呼ぶ。

原子炉近くで働いている人などは、
体の一部分のみを強く被曝するということが起こりうる。

一般の人はあまりそういうことはないので
あまり知っている必要もないのかも知れない。

しかしレントゲン撮影やCTスキャンは局所被曝の一種だとも言えるだろう。

被曝量の説明では、
そういうものとの比較も行われているようなので、
少しだけ説明しておこう。

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わかり易さを優先して非現実的な数値を持ち出すが、
そこを理解して読んでもらいたい。

たとえば親指の先に 1 ジュールのエネルギーの・・・
そうだなぁ、ベータ線を受けたとしよう。
ベータ線なら組織の奥までは届かないから説明に都合がいい。
アルファ線と違って、エネルギーも20倍して計算しなくていいし。

さあ、これは 1 シーベルトだろうか?

そうではない。

シーベルトは体重 1 kg あたりの放射線の影響を表すのだった。
親指の先はせいぜい 10 g なので、
1 kg のことを考えると、その100倍しなくてはならない。

つまり100シーベルトである。

これは実際に体が受けた影響よりも、かなり大げさな値だ。


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部分的に受けた放射線量の値と、
体全体が受けた健康への影響の開きを是正するために、
シーベルトについてもう少し細かい計算法が存在している。

体の各部分、つまり臓器や骨や皮膚などを
パーセンテージに分けて考えるのである。

放射線に受けたときに、より影響の大きな部分、
つまり人間にとってダメージの大きいところは、
大きめのパーセンテージが割り振られている。

このパーセンテージは、
単純に臓器の重さや体積で決めているわけではない。

これらのパーセンテージを、各部に受けた放射線量と掛け合わせて、
体全体について合計することで、
より現実にあった評価ができるというわけだ。

これを「実効線量」と呼ぶ。


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ちょっと用語をまとめておこう。

粒子の種類に関係なくエネルギーを計算したものは
「吸収線量」と呼び、単位は「グレイ」。

粒子の種類によってエネルギーを20倍したりして
人間に合わせて計算した量を、
「等価線量」と呼び、単位は「シーベルト」。

体を各部分に分けてより細かく計算した量を
「実効線量」と呼び、単位は同じく「シーベルト」。

うん、ややこしいな。

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局所被曝のときには「実効線量」の方を使うかのような
誤解を与える説明になってしまったかも知れない。

しかし実際は局所被曝の場合でも「等価線量」が使われることが多いのである。

ニュースを見ていて、
「作業員がスゴイ量の被曝をしたように報じられていたけれど、
あれはすぐに退院して大丈夫だったの?」
と不思議に思ったら、ここで話したような
「シーベルトの数値」と「全身のダメージ」に差があることと、
それを解決する計算法があることを思い出して考えてみるといいだろう。

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コメント

「スゴイ量の被曝をしたように報じられた」作業員さんの実効線量を彼の体重で割って、さらに被曝時間で割ると、各地のモニタリング結果として発表されている放射線の数値と単位が揃うと考えてよろしいでしょうか?

いえ、残念ながらハズレです。 もしそうなったとしても偶然です。
シーベルトはすでに体重あたりの量なので割る必要はありません。
しかも被曝時間は不明で、被曝の総量が発表されています。
足の皮膚に 180 m Sv でしたか。

皮膚にとっては数字が示す通りの相当な被曝をしているということです。

皮膚は放射線に対して比較的強く、
しかも体全体から比べるとわずかな部分なので、
健康への影響は軽微だとみなされて退院となったのだと思われます。

体全体がこの量の被曝をしていたら問題が出たかも知れないレベルです。

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